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研究テーマ 甑島漁協地区における自営事業の展開と意義
所 属・氏 名 水産学部水産経済学分野 鳥居享司
島 嶼 名 上甑島
キーワード 自営事業
要  旨 1.研究の目的
 漁協の経済事業のひとつに自営事業がある。漁業をめぐる諸環境が厳しくなるとともに,漁協の自営事業の事業収支も悪化,自営事業を中止するケースも各地で散見される。こうしたなか甑島漁協では多様な自営事業をかねてより展開している。本研究では,甑島漁協の自営事業に焦点をあて,その展開過程と効果を明らかにした。


2.研究結果の概要
漁協が自営事業を展開することによって,漁業経営や地域経済に経済的効果がもたらされていることが明らかとなった。第1は,漁業経営への貢献である。キビナゴ自営加工事業では,市場価格3,000円/15kgから4,000円/15kgのキビナゴを4,320円/15kgで購入しており,1kgあたり21円から88円の経済的効果を漁家経営に与えている。年間40トンから50トンほどのキビナゴを使用していることから,里地区のキビナゴ漁業経営に対して最小84万円,最大440万円の直接的な経済効果を及ぼしている。第2は,雇用効果である。自営事業には総勢30名近い漁協職員・臨時雇用者・期間雇用者が携わっている。ひとりひとりの給与額は決して多くはないが,年金や漁業収入と併せて生計を立てる漁業者や地域住民が大半であり,地域社会の維持という側面からの意義は看過できない。第3は,高齢漁業者に対して福祉的役割を発揮している点である。漁協自営事業に関わっている漁業者の多くが60歳を超えた高齢者である。受給する年金とあわせればゆとりある生活を送ることができる。島内では若い労働力を確保しづらいという事情はあるものの,高齢者の就労の場を提供する漁協自営事業は,これまた地域社会の維持という観点からは評価できるものではなかろうか。
その一方で,課題も存在する。第1は,労働力の高齢化である。いずれの自営事業も高齢者が中心になっており,新たな担い手の確保が課題になっている。しかし,高齢化と人口減少を背景に,島内在住の労働者を確保することが次第に難しくなりつつある。第2は,加工施設の処理能力の限界である。キビナゴ加工品を求める新規契約の打診があるものの,加工施設や冷凍庫の処理能力が上限近くに達しており,事業の拡張ができない状況にある。さらに,冷凍施設が老朽化によって故障するなど,自営事業の展開に影響をきたすケースもみられるようになった。漁協や地方自治体では新たな加工施設の建設を計画しているが,加工施設などは一旦建設すれば多くの固定費・変動費が必要になるうえ,原料の安定確保も必要になることから,十分に試算した上での対応が求められる。
文  献

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