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研究テーマ 離島漁業への生産振興の効果と課題
所 属・氏 名 水産学部水産経済学分野 鳥居享司
島 嶼 名 与論島
キーワード 生産振興,流通,加工
要  旨 1.研究の目的
 離島における漁業経営についてはさまざまな条件不利の存在が指摘されている。生産面では燃油や資材の単価が高く経営費用を押し上げる。販売面では島内市場が小さい故に島外市場に頼らざるを得ない。しかし,島外市場への輸送には費用がかかるうえ,島外輸送はフェリーの運航スケジュールに左右される。輸送時間がかかることから鮮度劣化による単価下落がみられるなど,生産から半ビアにおいて数多くの条件不利が存在する。こうしたことから,離島における漁業経営は厳しい状況に置かれる場合が多い。その一方で,離島周辺海域には豊かな水産資源や良好な漁場環境に恵まれる場合も少なくない。恵まれた水産資源や漁場環境を活かすべく,様々な公的支援を通じて離島地域と漁業経営の改善を目指す地域もみられる。
 本研究では,鹿児島県与論島を事例に,生産振興策が漁業経営へ与えた効果と課題について分析した。

2.研究結果の概要
 パヤオ設置という生産振興策が漁業構造へ与えた影響について整理すると次のようになる。
 第1は,パヤオの設置によってマグロ,カツオ,シイラなどの漁獲が可能になったことである。分散的に存在する回遊性資源をパヤオ設置によって効率的に漁獲できるようになった。パヤオ漁による漁獲量は与論島全体の30%近くを占めており,主力漁業のひとつにまで成長した。第2は,パヤオ漁からの漁獲物を島外出荷することによって利益を確保していることである。パヤオ漁からの漁獲物を中心とした島外出荷の平均単価は,島内出荷物よりも遙かに高く,出荷経費を差し引いても十分な優位性をもってきた。第3は,新規参入者と生産施設への投資が行われたことである。漁業者の減少と高齢化という傾向に歯止めをかけることはできていないものの,漁業者子息やUターン,Iターンしたものの新規参入によって,漁業者全体に対する40歳代以下の占める割合1998年以降,30%前後を維持している。さらに,新規参入した漁業者を中心に大型漁船を建造,パヤオ漁業等を積極的に行うケースもみられる。
 このように,公共投資を伴うパヤオの設置によって,与論島の漁業は大きな構造変換を遂げた。従来までの漁法では漁獲できなかったマグロ,カツオを漁獲することができ,かつ,それを島外出荷することによって一定水準の利益を獲得してきた。
 しかし,島外出荷と島内出荷の価格差はやや縮小傾向にある。島外出荷には島内出荷以上の費用が島外出荷の優位性は大きく縮小している。だが,離島がある故に島内出荷には限界があることから,島内と島外出荷の価格が逆転しても島外出荷せざるを得ない。つまり,周辺海域の恵まれた資源を漁獲するまではよいものの,与論島へ水揚げすると同時に条件不利を受けるという離島漁業が抱える課題に直面するのである。
離島漁業の維持のためには,パヤオの設置など生産面への支援に加えて,鮮度保持の徹底,付加価値加工化といった漁業者による努力と研究機関による技術的支援,さらには輸送費用への公的支援といった新たな施策と生産振興をパッケージで行うことが必要になると考えられる。
文  献 ・鳥居享司(2012年6月)「離島漁業の存立基盤の現状と課題」『地域漁業研究』(地域漁業学会)第52巻3号1~6頁
・ 鳥居享司(2012年6月)「離島漁業への公的支援と漁業構造の変化」『地域漁業研究』(地域漁業学会)第52巻第3号,29~46頁
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