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研究テーマ マグロ養殖の立地による漁協・地域経営へ与えた影響に関する研究
所 属・氏 名 水産学部水産経済学分野 鳥居享司
島 嶼 名 上甑島 中甑島
キーワード マグロ養殖 漁場利用 特定区画漁業権 漁協経営 地域経済
要  旨 1.研究の目的と背景
 マグロ養殖部門への資本参入,既存生産者による生産規模拡大が相次いでいる。海外におけるマグロ漁獲規制の強化,国産魚介類への根強い需要,アジア市場への期待などを背景に,マグロ養殖は「儲かる事業」と見なされ,大手水産資本の参入と生産規模拡大が進められてきた。さらに生産から販売の系列化が進んでおり,国産養殖マグロを大規模に取り扱うためには生産段階への参入が欠かせないとして,大手総合商社の参入も相次いだ。
 一方,生産地においては,漁協や地方自治体が中心になって資本を誘致する動きも見られる。その背景には,漁協経営や地域経済の悪化がある。既存漁業の弱体化によって漁協の経済事業は先細りの様相を呈し,さらには漁業を基盤とした漁村経済は疲弊の度合いを強めている。漁業権行使料の徴収や購買・販売事業などの利用促進による漁協経営の改善,雇用機会の創出を通じた地域経済の活性化などに期待して大手資本を誘致している。
 本研究では,2003年よりマグロ養殖経営体が新規参入した甑島(鹿児島県薩摩川内市)を事例に,資本参入が生産地へ与えた影響について分析を加えた。

2.研究結果の概要
 マグロ養殖資本の立地により,漁協に対しては①漁業権行使料の支払い,②販売手数料の支払い,③製氷・冷凍保管施設や購買事業の利用促進などの経済的効果をもたらしており,漁協の事業収支の改善に寄与している。地域社会に対しては27名ほどの雇用を生み出しており,雇用機会の乏しい島内にあって,マグロ養殖資本の創出する雇用機会は貴重である。今後もマグロ養殖資本が事業を継続し,特定区画漁業権が組合管理漁業権であり続ける限り,誘致した資本から漁協への経済的利益は継続的に発揮されるものと考えられる。
 今後は参入資本からの利用料や手数料を漁協がどのように使うのかという点が課題になる。現在は,負債返済や人件費補填などに使用されている。負債返済が完了するまでは致し方ないとしても,完済後は参入資本からの経済的利益,さらには資本との関係性を活かし,自立した漁協経営の確立に向けた取り組みへ参入資本からの利益を用いることが重要である。
文  献 ・鳥居享司(2009年7月)「甑島におけるクロマグロ養殖新規参入の影響と可能性」第580号『養殖』(緑書房)64~67頁
・ 鳥居享司(2008年10月)「魚類養殖業における輸出拡大の現状と産地へのインパクト-マグロ養殖をめぐる資本行動-」『漁業経済研究』第53巻第2号,85~104頁
・ 鳥居享司(2011年1月)「マグロ養殖への資本参入と漁場利用実態」『漁業経済研究』第55巻第1号,7~17頁
画  像
 


 

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